カルタゴ興亡史?ある国家の一生 (中公文庫BIBLIO)
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ジャンル: | 歴史,日本史,西洋史,世界史
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ローマ帝国勃興期のスケープゴート、古代カルタゴ
本書と『東ゴート興亡史』『ヴァンダル興亡史』で松谷健二氏の歴史三部作の円環が完成。『東ゴート興亡史』が出色の内容だが、アレを読んだ方々は三部作読破を目指したいところ。
三作の中ではカルタゴが一番読みにくい。作者は悪くない。松谷氏の語りは相変わらず小気味良いし、挿入されるコメントはドライだが深い。カルタゴはゲルマン人とは違うのだなぁ、としか言えない。築いてきた歴史が圧倒的に違う。カルタゴ人は当時の先進文明人でもある。悲劇に至る道は長く、重苦しい。
青銅器文明から鉄器文明へ移行する時代からフェニキア人の歴史が語り始められる。絶え間なく続く古代レバント興亡史だ。ヘレニズム文明圏の一員ではないフェニキア人はギリシア人との植民地争奪戦と制海権争いに明け暮れている。要するに終わりなき部族闘争の世界。ここらへん、局部的に例外はあっても、「物語」にさえならない。
ローマとの闘争は本書の半ばあたりから始まり、こちらも陰惨だし読んでいて鬱々となるばかり。ハンニバルが登場しようが、戦象がいななこうが、盛り上がりはしない。善も悪もない。強弱だけの世界だ。かくして第一次から第三次まで、いわゆるポエニ戦役が展開し、最後にかの史上有名なイメージがさらりと登場する。「カルタゴに塩が撒かれた」と。
私はポエニ戦役の発端も意味も結局捉えられなかった。「シチリア争奪戦」やら「地中海の覇権争い」やら説明されても本質的にはどうも分からない。「訳が分からない」というのが意外に正しい感想なのかな、と開き直ってみるが。この重苦しくて悲しい読後感、他二作と比較して「読み物」としての軽やかさがないあたり、シリアスな歴史書に近付いてしまった感じもする。「しまった」という表現もヘンだが。歴史は美しくもないし血湧き肉躍りもしない。
地中海諸国家の興隆と確執
豊富な資料を基に小気味良い口調でこのフェニキア人都市の興亡の実態が明らかにされていく。マグナグレーシャ時代の多くの地中海諸国は常駐する大規模な軍隊は持たず、戦時に必要なだけの兵士を調達した。そこには徹底した商人気質の合理主義がみられる。ただこれらの兵士は祖国への忠誠などとは縁の無い、金で雇われた雑多な民族の混成傭兵であり、戦況の旗色が悪くなると恥じも外聞も無く敵側に寝返ったり、より高い報奨金に釣られて他国へ鞍替えすることも間々あった。そればかりか南イタリア一帯に割拠していたギリシャ系都市国家も目先の利益を優先するご都合主義の風見鶏的な存在だったようだ。そうした混乱の中にあって、地の利と持ち前の商才と海運力を生かして大発展を遂げていたのがカルタゴであり、時を同じくして根っからの共和制国家ローマの台頭が重なった。アルプス越えを強行してイタリアで圧勝を続けたハンニバルが最終的に孤立してしまったのは、ローマの名将スキピオの頭脳戦だけではなく、本国カルタゴの近視眼的な政治政策に原因があったからだろう。松谷氏の文章の特徴は庶民的な気さくさにあるが、いわゆる流麗な文体ではない。
いぶし銀のような、そして、時代に先んじた名著
塩野七生のハンニバル戦記のドラマチックさはありません。 しかし、地中海世界で興隆し、700年で歴史から消えた海洋国家の興亡を淡々と、そして、冷徹に描いています。 日本のありようを照らしながら読みました。 15年以上前に初版が出された本ですが、未だに真価を訴え続ける名著と思いました。
隠れた名著!
アフリカ・フェニキア人国家設立、シチリアのギリシア系都市国家群との攻防、そうした中で制海権を得て大国へとのし上がっていくカルタゴ。やがて最大にして最後の敵、若き大国ローマに歴史から抹殺される国家の一生が、地中海・ヘレニズム諸国家それぞれのお国事情・支配者のエピソードなどを交え、シニカルで小気味の良い、著者らしい文章で語られていきます。情緒を抑えた語りによって余計な感情に惑わされることなく、かえってカルタゴという一つの歴史に引き込まれ、思いをはせることが出来ました。著者は歴史の専門家・研究者ではありませんが、そうした研究者が書いた本には無い読ませる力があります。もしご存命ならもっともっとこうした国家の一生を描いていってほしかったと思います。同じ著者の『東ゴート興亡史』も文庫で出ているので、あわせておすすめしたいと思います。
中央公論新社
ヴァンダル興亡史―地中海制覇の夢 (中公文庫BIBLIO) 東ゴート興亡史―東西ローマのはざまにて(中公文庫BIBLIO) ポエニ戦争 (文庫クセジュ) 生き残った帝国ビザンティン (講談社学術文庫 1866) (講談社学術文庫) ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて (講談社学術文庫)
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